矢代義光委員長インタビュー「感謝で人を育み人生を支えるボクシングを創りたい」
- Nagai
- 10月27日
- 読了時間: 11分
更新日:10月27日

■矢代委員長のボクシングとの出会いを教えてください。
私のボクシング人生の始まりは兄です。
兄は正義感が強いのですが体が小さく、いじめられてる子を助けようとしてケンカになって負けしまうのが嫌でボクシングを始めたみたいです。
私もその影響で町のジムでボクシングを習いました。
当時やはり子供がボクシングをやるのは珍しく、ジムでは楽しさを伝えてもらいました。
この時、ガッツリ厳しくされていたら、ここまでボクシングは続かなかったと思います。
やはり楽しいという原点が大事ですね。
そうして中学2年のころ、父に決断を迫られます。
勉強ができないから高校進学が難しい。
塾を増やすか、ボクシングをまじめにやるか。
そこでボクシングを選んだのです。
高校時代は170㎝以上ある私が48キロ級でやるための減量が本当につらかったですね。
自分が大学1年のとき、プロボクサーになっていた兄が、試合で開頭手術を繰り返すほどの死に直面する大けがを負ってしまいます。
一命はとりとめたものの、そこからが大変でした。
脳を冷凍する処置をほどこしたせいか、言葉が出てこない。冷蔵庫というもの、機能はわかっているのに単語が出てこない。弟の私の名前も出てこないんです。
そんな状態なのに兄は「お前なんでここにいるんだ? 練習はどうしたんだ」って言うんです。名前も思い出せないのにボクシングの練習には行けと言う。
でも、こんな状況で自分がボクシング続けていいか悩みました。それで家族に相談したら、兄だけでなくみんなが「やれ」と言ってくれたんです。
リングに上がる覚悟、ボクシングの怖さはこの時、私の中に刻み込まれたと思います。
その後私自身がケガをすることもあっても父母は支えてくれました。
リングの上では一対一ですけど、それまでたくさんの方が支えてくれて、 たくさんの方の後押しがあってリングに上がれていると実感した選手生活でした。
たくさんの人に支えらえて日々の生活がある。この実感は人生の本質だと思いますし、自分の子供を含めて多くの人に伝えたいことです。
ボクシングは「人生の縮図」と言った人がいましたが、本当にそうだと思います。辛い時こそガードを上げて前に出る。こんなふうな事も、その人の人生のスタンス、人間としての大きさにつながっていくと思います。
兄が大手術しているとき、夜の病院で窓ガラスに自分の姿が映ると、ついシャドーをやってしまっていた。
兄がこんな状態なのに、と思う反面、やはり自分はボクシングが好きなんだ、と思いました。
プロボクシングへも、その「好き」と支えてくれる皆の気持ちをもって、突き進むことができましたね。
■矢代委員長の考える、ボクシングの魅力とは?
ボクシングのどんな面が好きか、と言えば、やはり戦略性、駆け引きですね。
イメージとしては地雷を埋めていく感じです。
自分の得意なパンチは左ストレートと右フックなんですが、左ストレートを当てるために、その前の動き、足や目線のそこかしこに地雷を埋めて、そこに誘導していくためにどうするかを逆算していく。
プロ野球の名捕手、古田さんが「このバッターは6球目で三振を取る」という戦略でリードされていたのと似ています。
対戦する相手によって自分を変えるのではなく、自分のボクシングをどうつなぐかを考える。相手のフォーメーションをどう崩すのかを考える。
プロでいえば4回戦ではどこを打てば当たるかを考える。6回戦でどうやれば当たるかが見えてくる。8回戦になるとお互いにもう隙はないので、どこから崩すかが焦点になってくる感じですね。
こうしたことは、やはり対人練習でしか培われないものです。
自分の体験では、メキシコの英雄と言われた選手のスパーリングパートナーになった時、一つステージが上がったと思います。
メキシコのボクサーは荒々しいイメージですが、やはり世界戦レベルの選手はもう緻密にすべてが計算されて動いている。どうやってもガードが突破できない。
そうして数か月、やられながらスパーを重ねていくと少しづつ突破口が見えてくるんですね。
この時は楽しかったし、自信もついて、確かに強くなれたと思います
■矢代委員長にとって"リング"とは?
今、私は「ボクシングで、日本をさらに元気に」という理想を掲げてボクシングジムを運営しています。健康のため、技術を磨きたい、試合に出たい、仲間と楽しみたい……理由は違えども、皆さんがそれぞれの想いを持ってジムに来てくださっています。
ある会員さんが自分にある日、こう言ってくださいました。
「この年になって、今が青春ど真ん中だよ」
この方は日々親御さんの介護をされています。
その方が「ジムでボクシングを習う時間が、自分にとって一番のストレス発散なんです。ジムでの時間がなかったら、たぶん今、私は生きてはいなかったと思います」と言ってくれて、私もその時間を大切にサポートしてきました。
そして、マスボクシング競技を紹介したところ、すぐに夢中になってくださり、今では「この競技は自分の人生にとってなくてはならない存在」とまで言っていただけるようになりました。ボクシングには、人の人生を明るく前向きに変える力があるんです。
また、ある日、暗い顔して練習されていた会員さんが、いきなりミッド中泣き出してしまったことがあります。
「40過ぎの大人が泣いちゃって申し訳ないんですが、実は今いろんな悩みがある。仕事の悩みや家族の悩み…。 でもここで1回リセットさせてもらって、マスボクシングの目標があるから踏ん張れるんです」
聞いていた私も、周りの会員さんもみんな泣き出してしまいました。
皆さん、いろいろな事情を抱えて生きていると思います。
仕事上の困難や、必ずしも家族が癒しになるとは限らないときもあるでしょう。
そんなとき、リングが「第3の居場所」になるなら、それは素晴らしい事だと思うんです。
■委員長はメンタルトレーニングも指導されておられると聞きました。
私がメンタルトレーナーの資格を取るために「感謝ワーク」という技法を習ったとき、はじめて気づいたことがあります。
私がボクシング人生の中で一番いい試合をやれた、と感じたのはタイトルマッチの初挑戦の時でした。
何が良かったのか、改めて考えなおしてみたんです。
自分は挑戦者だったので先にリングに上がり、チャンプが上がってくるまでちょっと時間があるんです。
その時間に、リングから応援してくれてる皆さんと「どうもありがとう、今日はありがとう」「頑張れよ」っていう感じで顔を合わせて交感した、あの時間でマインドが整ってすごく集中できて、良い試合をやることができたんだ、とわかりました。
リングでの戦いは「自分だけでやるんじゃない」という感覚、実感。もう本当に感謝の気持ちがわいて、それが高度な集中につながる。
自分はこの「感謝する心を育てるボクシング」を多くの人に伝えていきたいと思うんです。
ボクシングを楽しむと、日常の生活や感じ方が変わってくると思います。
私は試合の時に、選手にアドバイスするとき、決してネガティブな事を言いません。
相手やジャッジに、こちらの不利な点を教えてしまう、という戦略的な意味もありますが、もっと大事なのはマインドをプラスにもっていき、最後は楽しかった、ハッピーな感覚で終わることなんです。
それに、試合中、背中を押されてるって感じがすぐわかるので選手の動きがすごく良くなりますよ。
良い事、プラスな事に焦点を当てる、というのは日常生活にも生かせることだと思います。
■ 第4回マスボク全日本で、山中慎介さんと入江聖奈さんのエキシビジョンマッチを仕組まれたのは矢代委員長でしたね?
私はプロ時代を帝拳ジムでお世話なっていました。
そのご縁があって「神の左」と称えられ、世界戦を12回防衛した名チャンピオン山中慎介さんに、昨年の第4回マスボクシング全日本選手権で、マスボクシングの試合をしてもらいました。
お相手もすごくて、東京オリンピックのゴールドメダリストの入江聖奈さん。
ドリームマッチだったと思います。
お二人には、マスボクシングが「本気で戦える競技」であることを、もっと多くの人に知ってほしいという想いからお願いしました。
山中さんは一応ジムでは私の後輩にあたるんですが、すごく熱い男で、 自分は大好きだったんです。
彼が日本チャンプになったとき大阪まで応援に行きったりしていました。
彼はそうした恩義をずっと感じてくれる男で、もうバリバリの世界チャンピオンになっているのに、私のジムのオープンには駆けつけてくれたり、私がマスボクシングの普及委員長になってからも、いろんなイベントにお願いすると「矢代さんのためだから」と来てくれて。
マスボクシングのエキシビジョンマッチをしてほしい、というお願いにも即答で、本当感動しました。
お二人を駅まで迎えに行き、車内で「はじめまして」とご挨拶を交わしたあと、山中さんから「今日はどんな感じでやりましょうか?」と聞かれたので、私はすかさず、
「当てない以外は真剣勝負でお願いします。笑顔は一切いらないです。」と伝えました。
その瞬間、車内の空気が一変。まるでこれから本当にリングに上がるような緊張感に包まれたのを覚えています。
そして試合は、見ていただくのが一番と思いますが、本当にバチバチで素晴らしいものでした。
当日、私は山中さんのセコンドに入りました。
1ラウンドが終わって戻ってきた山中さんの唇は真っ青で「こんなにも本気で、この競技を盛り上げようとしてくれているんだ」と、胸が熱くなりました。
入江選手もレジェンドですから、まったく物おじしないで、二人の勝負強さが出た好試合だったと思います。
試合後、2人からは、ものすごく楽しかった、マスボクシングのスポーツとしての発展性を感じた、というお話を以降同音で聞けてうれしかったですね。
山中さんは「ボクシングをあらためて楽しく感じました」と言ってくれ、入江さんは「<神の左>は、その前の右があって成立することがわかりました。このスポーツはみんなが楽しめて、しかも高度な発展性もあると思います」と話していました。
セコンドに入っている時、苦しそうな山中さんから「もっと水をがぶがぶ入れてください」と指摘されて、「じゃあ次は溺れるくらい入れてやろう」と思ったりして(笑)、いい思い出になりました。
そして何より、このマスボクシング競技がなければ、あの名チャンピオン・山中慎介さんのセコンドに立つことは一生なかったと思います。
そう思うと、心から感謝の気持ちでいっぱいです。
■矢代委員長がマスボクシングを伝承していく上で心がけていることは?
私のジムでは「どんな方でも本気でボクシングを楽しめる場所」であることを大切にしています。
ジムに通う全員がプロになることを目的とはしていませんが、「うまくなりたい」という気持ちがあるから、純粋にボクシングを上達したいと思って通ってくれている。
だからこそ、私はどんな方にも本気で技術を伝えてきました。
そんな中で「何か目標となる場があったら、もっと前向きに取り組めるのではないか」と感じていたところに、約5年前、日本ボクシング連盟がマスボクシング競技の全国大会を開催すると知り、第1回大会から楽しんで参加しました。
"当てないけど本気で戦う"
そんなマスボクシングは間口が広く、どんどん参加してほしいと思います。
もちろん、「日本一を目指す」ことも素晴らしい目標ですが、それ以上に“チャレンジすることそのものに価値がある”ことを体験して頂きたいと思います。
ボクシングを始めて間もない方々が勇気を出してリングに立ち、試合後には「またやりたい!」と笑顔で話してくれた姿がとても印象的でした。
マスボクシングを通じて誰かが夢中になってくれる瞬間に立ち会えるのは、ボクシングに携わる者として最高の喜びです。
チャレンジすれば、今自分の現在地がわかります。
現在地がわかることによってどこにどうやって進むのかを考える事が楽しいですし、 どういう壁にぶつかっているのかがわかれば、指導者が「こうだからこのパンチが当たるんだよ」と気づかせてくれると、さらに面白くなってくる。
指導者と学ぶ人、お互いにまだこんなに引き出しあるのか、ってワクワクに繋がると思うんです。
マスボクシングを通して、このスパイルを作り「ボクシングで、日本をさらに元気に」という、私のジムの理念を実現していきたいですね。
最後に、これからマスボクシングを始めたい、という方に、ジム選びのポイントをお伝えしたいと思います。
まず大前提として、マスボクシング競技に参加するには、日本ボクシング連盟に加盟しているジムや団体である必要があります。
ですので、気になるジムがあれば「連盟に加盟しているか」「マスボクシング大会に実際に参加しているか」をぜひ確認してみてください。
そのうえでおすすめなのは、しっかりルールを理解して、指導の中にもマスボクシングの理念を取り入れているジムです。
単にボクシングの真似事ではなく、「当てないけど本気」というマスボクの奥深さを指導してくれるかどうかが重要なポイントだと思います。
これからもみんなでマスボクシングを盛り上げていきましょう!




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